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1棟アパート・マンションの仕入れで、いちばん危ないのが「表面利回り◯%だから買い」という判断です。表面利回りは、満室を前提にした"見かけ"の数字。ここに空室・運営費・修繕・出口の現実を織り込まないまま買うと、買った後に利益が静かに崩れます。
だからこそ、1棟には「査定書」=根拠のある評価を1枚にまとめたものが要ります。この記事では、なぜ査定書が必要なのか、そして査定で必ず押さえるべき5つの数字を、買取再販の実務目線で整理します。
先に結論: 1棟の価値は「満室想定の表面利回り」ではなく、NOI(実質の手残り収益)÷ 還元利回りで見ます。査定書で押さえるのは①想定賃料の妥当性 ②空室率 ③運営費 → から出す ④NOI と ⑤還元利回り(キャップレート)による評価額。この5つを外すと、"高値づかみ"と"出口の読み違い"が同時に起きます。
※本記事の数値はすべて架空の記入例です。賃料相場・還元利回り(キャップレート)はエリア・築年・構造で大きく異なり、当サイトでは特定の水準を断定しません。実際の査定は自社の数字と専門家の確認で固めてください。
なぜ「表面利回り」だけで買ってはいけないのか
表面利回りは 年間の満室想定賃料収入 ÷ 物件価格 で計算する、最もシンプルな指標です。物件広告にも必ず載っています。ただし、これは満室・費用ゼロを前提にした理論値。実際には次が引かれます。
- 空室:常に満室とは限らない。空室が続けば収入は想定を下回る。
- 運営費:管理委託料、共用部の水道光熱費、原状回復・小修繕、固定資産税・都市計画税、保険料など。
- 大規模修繕:屋上防水・外壁・給排水管など、数年〜十数年ごとにまとまった支出。
- 築古のリスク:融資期間の制約、旧耐震、設備更新。
これらを引く前の"表面"だけで買うと、「利回り8%のはずが、手残りベースでは4%台」ということが普通に起きます。1棟は金額が大きいぶん、この読み違いがそのまま大きな損失になります。
査定書で押さえる「5つの数字」
① 想定賃料の妥当性
現況の賃料が相場より高い(=退去後に下がる)場合があります。現行賃料をうのみにせず、周辺の募集賃料と比べて「退去後に取れる賃料」で評価します。サブリースや一括借り上げがある場合は、その条件・改定リスクも確認します。
② 空室率(稼働率)
満室想定でなく、現実的な空室率を織り込みます。エリア・築年・間取りで妥当な稼働率は変わるため、周辺の空室状況と過去の入退去履歴から見積もります。
③ 運営費(ランニングコスト)
管理委託料・共用部費用・修繕費・固都税・保険料などを積み上げます。「賃料収入の何%」で概算することも多いですが、築年や構造で幅が出るため、実額の確認が理想です。
④ NOI(実質の手残り収益)
上記から、NOI = 年間賃料収入 −(空室損失+運営費) を出します。これが「その物件が実際に生む収益」。査定はここが土台です。表面利回りではなく、このNOIをベースに考えます。
⑤ 還元利回り(キャップレート)による評価額
収益還元法(直接還元法)の基本式は——
収益価格 = NOI ÷ 還元利回り(キャップレート)
たとえばNOIが同じでも、還元利回りを5%で見るか6%で見るかで評価額は大きく変わります。還元利回りはエリア・築年・規模・投資家の要求利回りで決まるため、当サイトでは特定値を示しません。自社が「この物件なら何%で回すか」を入れて評価します。あわせて、実質利回り(NOI ÷ 総投資額)も併記すると、価格の妥当性が見えます。
買取再販(転売)では「出口」からも逆算する
保有し続ける投資家と違い、買取再販では出口(売却)を前提に査定します。ポイントは2つ。
- 出口の売却価格を想定する:再販時に「どんな買い手が・どの還元利回りで買うか」を想定し、出口価格を保守的に置きます。相場の頭打ちや金利上昇局面では、ここを強気に置かないことが重要です(→ 中古相場の転換点/金利負担の試算)。
- 仕入れ上限を逆算する:出口価格 −(バリューアップ費用+保有コスト+諸経費+目標利益)= 仕入れ上限。表面利回りからではなく、この逆算から上限を決めるのが、1棟の高値づかみを防ぐ王道です(→ 再販価格の考え方)。
大規模修繕の引当や、融資条件(金利・期間・掛目)も保有コストとして織り込みます。1棟は保有中の金利負担が大きく効くため、回転(保有期間)の管理も査定と同じくらい重要です(→ 在庫回転)。
まとめ:1棟は「1枚の査定書」で判断を揃える
1棟収益物件の査定は、突き詰めると次の型です。
- 表面利回りで判断しない——満室想定の見かけの数字に過ぎない
- NOIを土台にする——賃料の妥当性・空室・運営費を引いた実質収益
- 還元利回りで評価する——NOI ÷ キャップレートで収益価格を出す
- 出口から逆算する——買取再販は売却前提。保守的な出口価格から仕入れ上限を決める
- 1枚にまとめる——同じフォーマットの査定書にすると、担当者ごとの判断のブレが減り、社内でも金融機関にも説明しやすい
数字を揃えた査定書は、仕入れの意思決定を速くし、根拠のある価格提示を可能にします。1棟の勝ち筋は、「利回りが高いから買う」ではなく「査定で出た上限を守る」ことにあります。
1棟収益物件の事業モデル全体は 一棟収益物件の買取再販 もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 表面利回りと実質利回りは何が違いますか?
A. 表面利回りは「年間賃料収入 ÷ 物件価格」で、満室・費用ゼロを前提にした見かけの数字です。実質利回りは「NOI(賃料収入から空室損失・運営費を引いた実質収益)÷ 総投資額(物件価格+購入諸経費)」で、より実態に近い利回りです。1棟の査定は実質ベースで見るのが基本です。
Q. 収益還元法(直接還元法)はどう計算しますか?
A. 「収益価格 = NOI ÷ 還元利回り(キャップレート)」で求めます。NOIはその物件が実際に生む年間収益、還元利回りはエリア・築年・規模・投資家の要求利回りで決まります。還元利回りの水準は物件ごとに大きく異なるため、自社の基準で設定して評価します。
Q. 買取再販で1棟を査定するとき、投資家の査定と何が違いますか?
A. 保有前提の投資家と違い、買取再販は「出口(売却)」を前提に査定します。想定する出口価格を保守的に置き、そこからバリューアップ費用・保有コスト・諸経費・目標利益を差し引いて仕入れ上限を逆算します。表面利回りではなく、この逆算で上限を決めることが高値づかみの防止になります。
出典・参考
- 収益還元法・NOI・利回りの一般的な考え方は、不動産の収益評価で広く用いられる基本的な手法です。個別物件の評価・還元利回りの水準・税務の扱いは、不動産鑑定士・税理士等の専門家にご確認ください。
