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仕入れの成果は、突き詰めれば「誰が仕入れているか」で大きく変わります。だからこそ買取再販の会社では、良い仕入営業を採り、正しく評価し、辞めさせないことが、そのまま業績を左右します。ところが多くの現場で、採用は場当たり的で、評価は「粗利をいくら積んだか」だけ、歩合は「なんとなく前からこの率」——という状態のまま拡大フェーズに突入してしまいます。
採用・評価・歩合の設計がずれていると、二つの問題が同時に起きます。ひとつは、成果を出すエースが「もっと払う会社」へ抜けていくこと。もうひとつは、粗利だけを追う評価が、無理な指値や強引な案件を生み、会社の看板を傷つけることです。仕入れの標準化や新人育成が「育て方」の話だとすれば、この記事はその手前と土台にある「採る・評価する・定着させる」に特化して整理します。
なお、給与水準や歩合率には確たる相場があるわけではなく、会社の粗利構造・エリア・仕入れルートによって適正値は変わります。本記事では相場を断定せず、「自社の数字で設計するための考え方」を中心にお伝えします。
結論を先に: 仕入営業の人事は「①採用要件を言語化して見極める → ②結果(粗利)だけでなくプロセスも評価する → ③固定と歩合のバランスで暴走と離職を防ぐ」の三点で設計します。歩合は強力ですが、粗利だけに連動させると強引な仕入れと属人化を招きます。評価と歩合は、標準化された判断基準とセットにして初めて機能します。
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なぜ仕入営業は「採用の失敗」が高くつくのか
一般の営業職と比べて、仕入営業の採用ミスは損失が大きくなりがちです。理由は三つあります。
第一に、立ち上がりに時間がかかること。エリア相場・出口の読み・法規や取得適格の勘所は、入社してすぐに身につくものではありません。戦力になる前に辞められると、採用コストも教育コストも回収できません。
第二に、一件あたりの金額が大きいこと。仕入れは数百万〜数千万円単位の意思決定です。判断のずれが一件でも、粗利を丸ごと飛ばしかねません。
第三に、辞められると判断がブラックボックスに戻ること。エースが持っていた仕入れルートや相場観が言語化されていなければ、退職とともに失われます。これはまさに仕入れ判断の属人化の問題で、採用・評価・定着の設計は、属人化対策と表裏一体だと考えるべきです。
だからこそ、「とりあえず経験者を採る」「辞めたら補充する」ではなく、採用の入口から評価・報酬まで一本の設計として考えることが、結果的に一番安くつきます。
どんな人を採るか——採用要件を言語化する
仕入営業の採用でまず必要なのは、「自社にとって良い仕入営業とは何か」を言葉にすることです。ここが曖昧なまま面接をすると、面接官の好みや「勢いがありそう」といった印象で決めてしまい、入社後のミスマッチにつながります。
経験者か、未経験者か
即戦力を求めるなら経験者ですが、経験者は前職のやり方(指値の癖、扱う物件タイプ、リスク許容度)を持ち込むため、自社の基準と合うかの見極めが要ります。一方、未経験者は白紙から自社の型を教えられる反面、戦力化に時間がかかります。どちらが正解ということはなく、自社の育成体制(標準化と新人育成がどこまで整っているか)とセットで決めるのが現実的です。判断基準がシート化されている会社ほど、未経験者を採る余地が広がります。
見極めたい資質の例
仕入営業に効きやすい資質を、採用要件として言語化しておくと面接がぶれません。一例として、次のような観点があります。
| 観点 | 見極めのポイント(面接・試用での確認例) |
|---|---|
| 数字への誠実さ | 都合の悪い数字(競合の売出し、経過日数)も直視できるか。粗利を良く見せようとしないか |
| 出口から逆算する思考 | 「売れる価格」から逆算して仕入れ値を考えられるか。買いたい欲が先に立たないか |
| 撤退できる判断 | 見送るべき案件を見送れるか。「せっかく話が来たから」で無理をしないか |
| 関係構築 | 仲介・金融機関・売主との信頼を積めるか。仕入れルートは人で決まる |
| 学習姿勢 | 自社の基準やシートを素直に使えるか。過去のやり方に固執しないか |
「営業が強い=仕入れが強い」とは限りません。売る営業は押し込む力が武器になりますが、仕入れは「買わない判断」ができることが同じくらい重要です。ここを面接で確認せずに販売営業の基準で採ると、入社後に強引な仕入れが増えがちです。
宅地建物取引士(宅建士)の位置づけ
採用計画では、専任の宅地建物取引士の設置義務も踏まえておく必要があります。宅地建物取引業法では、事務所ごとに、業務に従事する者5名に1名以上の割合で専任の宅建士を置くことが求められます(宅建業法31条の3、比率は同法施行規則15条の5の3)。基準を満たさなくなった場合は、2週間以内に必要な措置をとらなければなりません(同法31条の3第3項)。
つまり仕入営業の増員は、宅建士の人数計画と切り離せません。資格の有無を採用要件に含めるか、入社後の取得を支援するかは、自社の体制に合わせて設計します。「専任性」の具体的な判断や兼業の扱いは個別性が高いため、詳細は行政書士等の専門家に確認してください。
評価をどう設計するか——「結果」だけで測らない
仕入営業の評価を「積んだ粗利の額」だけにすると、短期的には分かりやすいものの、副作用が出ます。
- 数字を作るために、無理な指値や説明不足の仕入れが増える
- 良い案件だが粗利の薄いものを、担当者が避ける
- 運(たまたま良い案件が回ってきた)と実力の区別がつかない
- ノウハウを抱え込み、共有しない——属人化を助長する
そこで、結果指標(粗利・成約件数)とプロセス指標(正しい手順を踏んだか)を組み合わせるのが定石です。プロセスを評価するには、そもそも「正しい手順」が定義されている必要があり、ここで仕入れ判断の標準化が効いてきます。判断基準がシート化されていれば、「取得適格を先に確認したか」「出口の想定に根拠があるか」を評価項目にできます。
評価項目の組み立て(例)
※架空の記入例です。配点や項目は自社の方針で設計してください。
| 区分 | 評価項目の例 | 意図 |
|---|---|---|
| 結果 | 確定粗利、成約件数、在庫回転への貢献 | 会社への直接貢献を測る |
| プロセス | 取得適格チェックの徹底、査定根拠の明確さ、見送り判断の妥当性 | 再現性と質を測る/結果の運を補正 |
| 組織 | ノウハウ共有、新人へのOJT、仕入れルートの引き継ぎ | 属人化を防ぎ、チームを強くする |
| コンプラ | 説明・記録の適正、無理な指値をしていないか | 会社の看板を守る |
ポイントは、プロセスと組織貢献を評価に入れることで、「抱え込むほど損」な設計にすることです。ノウハウ共有やOJTを評価すれば、エースが後進を育てるインセンティブが生まれ、属人化のリスクが下がります。逆にこれらを一切評価しなければ、「教えたら自分の価値が下がる」という発想を助長してしまいます。
歩合・インセンティブ設計の考え方
歩合(インセンティブ)は、仕入営業のモチベーションを動かす強力な仕組みです。ただし設計を誤ると、離職と暴走の両方を招きます。ここでは相場ではなく、設計の「考え方」を整理します。
固定と歩合のバランス
完全歩合(フルコミッション)に近づけるほど、成果への意識は高まりますが、収入が不安定になり、腰を据えた仕入れがしにくくなります。焦って無理な案件に手を出す、じっくり育てるべき仕入れルートを軽視する、といった弊害も出ます。逆に固定給の比率が高すぎると、頑張るインセンティブが弱まります。自社の粗利構造をふまえ、安定して働ける固定給+成果に報いる歩合のバランス点を探るのが基本です。
ここで押さえておくべき法的な論点があります。歩合給(出来高払制)を採用する場合でも、労働基準法27条により、労働時間に応じた一定額の保障給を定める必要があるとされています。また歩合給も最低賃金の適用対象で、時給換算して下回っていないか確認が要ります。時間外労働の割増賃金の計算方法も、固定給部分(1.25倍)と歩合給部分(0.25倍)で扱いが異なります。固定残業代(みなし残業)の適法要件や就業規則・賃金規程への記載も含め、制度設計は社会保険労務士に相談したうえで自社の状況に合わせて行ってください(本記事は制度の一般的な考え方の紹介であり、個別の適法性を保証するものではありません)。
何に連動させるか
歩合を「粗利額」だけに連動させると、前述のとおり強引な仕入れを誘発します。連動先を工夫することで、行動を望ましい方向へ導けます。一例として、次のような設計が考えられます。
- 粗利だけでなく、実際に売り切れて確定した利益に連動させる——仕入れっぱなしで在庫を抱えるインセンティブを消す
- 見送り判断や仕入れルート開拓など、プロセスも一部評価に反映する——短期の数字だけを追わせない
- 個人歩合とチーム配分を組み合わせる——協力・共有を促し、属人化を抑える
歩合の水準を考えるうえでは、そもそも自社が一件でどれだけ粗利を生む構造なのかを理解していることが前提になります。収益構造の全体像はビジネスモデルの記事で整理していますが、歩合原資は粗利の中から出すものである以上、粗利率・在庫回転・保有コストを無視した歩合率は設定できません。
「払いすぎ」も「払わなすぎ」も離職を招く
歩合は、高ければ定着するわけではありません。払いすぎれば会社の利益を圧迫し、他の職種との不公平感を生みます。払わなすぎれば、成果を出す人ほど「正当に評価されていない」と感じて抜けていきます。成果と報酬の納得感(同じ成果なら同じ報酬か、基準は明確か)が、金額そのもの以上に定着を左右します。
定着(辞めない)を左右するもの——歩合以外の要因
「辞めない会社」をつくるのは、歩合だけではありません。むしろ歩合以外の要因が効くことが多いものです。
- 案件配分の公平性:良い案件が特定の人にばかり回る、配分の基準が不透明——これは不満の温床になります。誰に何を割り当てるかのルールを明確にします。
- 属人化していない環境:判断基準が標準化され、仕入れルートが共有されていれば、新人でも成果を出しやすく、エース一人に負荷と評価が集中しません。属人化は、当人にとっても「休めない・辞めさせてもらえない」プレッシャーになります。
- 成長の実感とキャリア:新人育成の仕組みがあり、次のステップ(マネジメント、エリア拡大の任せ)が見えることは、金銭以外の強い定着要因です。
- 理不尽な数字責任がないこと:市況で仕入れが難しい局面に、個人の努力だけで補えない目標を課すと、優秀な人ほど冷めていきます。
採用・評価・歩合をどれだけ精緻に設計しても、これらの土台が崩れていると人は辞めます。「良い人を採る」より「良い人が辞めない環境をつくる」ほうが、費用対効果が高いことは少なくありません。
まとめ:採用・評価・歩合は一本の設計にする
- 仕入営業の採用ミスは、立ち上がりの長さ・金額の大きさ・辞めたときの属人化への逆戻りで、損失が大きい
- まず採用要件を言語化する。「買わない判断ができるか」を販売営業の基準と混同しない
- 増員は専任宅建士の設置義務(5名に1名以上)と切り離せない
- 評価は結果(粗利)だけでなくプロセスと組織貢献を入れ、抱え込むほど損な設計にする
- 歩合は固定とのバランスが要。労基法の保障給・最低賃金・割増賃金の論点は社労士と設計する
- 定着は歩合以上に、案件配分の公平性・脱属人化・キャリアが効く
採用・評価・歩合は別々の施策ではなく、標準化された判断基準を土台に、一本の設計としてつなげたときに初めて機能します。仕入れの判断基準を1枚に落とすたたき台として、物件情報と自社基準を入れれば粗利率とGO/STOPの目安が出る「仕入れ可否判定シート(Excel)」を無料配布しています。評価のプロセス指標や新人研修の教材としてもお使いいただけます。
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関連記事もどうぞ。
- ▶ 標準化で仕入れ判断を「教えられる形」にする(評価のプロセス指標の土台)
- ▶ 新人育成の進め方(採ったあとの立ち上げ)
- ▶ 属人化が規模拡大で生むリスク(採用・定着と表裏一体の課題)
- ▶ ビジネスモデルと収益構造(歩合原資となる粗利構造の全体像)
よくある質問(FAQ)
Q. 仕入営業は経験者と未経験者、どちらを採るべきですか?
A. 一律の正解はなく、自社の育成体制で決めます。判断基準が標準化・シート化されている会社ほど未経験者を採る余地が広がり、そうでなければ経験者の即戦力に頼らざるを得ませんが、経験者は前職の癖と自社基準の相性を見極める必要があります。
Q. 歩合は粗利額に連動させれば良いですか?
A. 粗利額だけに連動させると無理な指値や在庫の抱え込み、ノウハウの独占を招きやすいため、確定利益への連動、プロセスや組織貢献の反映、チーム配分の併用などで、望ましい行動に向かう設計にするのが現実的です。
Q. 完全歩合(フルコミッション)にしても問題ありませんか?
A. 歩合給を採用する場合でも労働基準法27条により労働時間に応じた保障給が必要とされ、最低賃金や時間外割増賃金の扱いも固定給と異なるため、就業規則・賃金規程への記載を含め社会保険労務士に相談し、自社の状況に合わせて設計してください(本記事は一般的な考え方の紹介です)。
Q. 仕入営業を増やすとき、宅建士は何人必要ですか?
A. 宅地建物取引業法により、事務所ごとに業務に従事する者5名に1名以上の割合で専任の宅地建物取引士を置く必要があり(宅建業法31条の3、施行規則15条の5の3)、基準を満たさなくなった場合は2週間以内に措置が必要です。増員計画は宅建士の人数計画とあわせて考えます。
Q. 良い人を採っても辞めてしまいます。何が原因ですか?
A. 歩合の金額以上に、案件配分の不透明さ、属人化による負荷集中、成長やキャリアが見えないこと、市況で達成できない目標などが離職要因になりがちです。採用や歩合の精緻化より、辞めない環境づくりのほうが効果が高い場合が少なくありません。
出典・参考
制度の要件・数値は改正で変わり、個別の適法性は専門家判断が必要です。最新は一次情報でご確認ください。
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(専任宅建士の設置義務 第31条の3 ほか)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(専任宅建士の割合 第15条の5の3)
- e-Gov法令検索「労働基準法」(出来高払制の保障給 第27条/割増賃金 第37条)
- 国土交通省「賃金に関する労働基準関係法令等について」(厚生労働省資料)
